
NHKのふれあいホールで行われた公開収録「Session 2020」に行ってきた。1/18夜公演の「本田竹広Tribute Band」は、当初の予定では6人編成だったのだが、テナーサックスの峰厚介、ギターの橋本信二が体調不良で休み。

ギターの和泉聡志が代役となった。体調不良であるなら致し方ない。回復をお祈りする。
そんなわけでバタバタであったのだろう。「一生懸命演奏したいと思います」と言うしかなかったようだ。演奏内容は、ほめられたものではなかった。仕方あるまい。
板橋文夫さんは少々足を引きずり気味であったが、がんばっていた。2000年代初めのころに、横浜のジャズの催しで板橋文夫のビッグバンドを聴いて感動し、その場でCDを買って帰ったのだが、そのCDの内容はさほど面白いものでなく、うーん、と思ったことを覚えている。
今回はピアニストの背後に座ったため、何をやっているか、わりとよく観察できた。下の方を時々がーんと叩くのが持ち味で、ラウドペダル(ダンパー、サスティン)を踏むことが少ないのも特徴と言えそうだった。板橋さんががんばればがんばるほど、ジャズにおけるピアノという楽器の限界が浮き彫りになるようで、ちょっと悲しかった。
高校の時に自分がリーダーのコンボでジャズをやっていた時には気付かなかったのだが、大学のジャズ研でセッションをして痛感したことは、ジャズのコンボにおいてピアノというのが極端に非力な存在であるということだ。ドラムスは小さな音も大きな音も出してくる。ベースはピックアップを付けて大きなアンプにつないでブンブン言っている。サックスは咆哮する。この3者がいるだけで、ピアノはまったく太刀打ちできない。音量が小さ過ぎるのだ。
となると、適切な拡声なしでピアノが勝負できる編成というのは限られる。ピアノソロ、ピアノ+ベース、ピアノトリオくらいはOK。それにボーカルを加えても大丈夫だ。でも、サックスを加えたら分が悪い。エレクトリックギターが来てもおかしくなる。山下洋輔トリオはベースレスでピアノ、ドラムス、サックスであることが多かったが、これは、ベースを抜くことでピアノの攻撃範囲を広げようという策であったろう。
アコースティックピアノとエレクトリックギターはかなり難しい組み合わせで、ビッグバンドならまだしも、コンボがそれでうまくいった例を、私はなかなか思い出せない。今回聴いたバンドは、その点だけでも、編成に無理があると思う。
今回のバンドの聞かせ所はネイティブ・サンのナンバーであったろうと思うのだが、それを、アップライトベースとアコースティックピアノでやるのは、無理があるとも思った。
会場拡声にも不満が残った。ふれあいホールはステージが広く、反響板的なものは一切ないため、音がそこら中に抜ける。客席も見た目よりデッドであるようで、ライブハウス的な音のする箱ではない。それは放送収録という主目的を考えれば適切な構造なのだが、会場にも、もうちょっとまともな音を供給してくれてもよさそうなものだ。
一人になってしまったサックスの音は頼りなかった。リバーブかディレイを少し加えるだけで元気にできたろうに。ピアノの音はほとんど拡声されておらず、まともには聞こえなかった。(つや消しだったから多分ニューヨーク)スタインウェイのモデルDは、ダブルキャスターだったからけっこう新しいものであると思うが、伸びも響きも物足りない、おそらく「はずれ」である。板橋さん、がんばってるのに、かわいそうに、と思った。
一方で、1月19日夜公演「高瀬龍一BIG BAND PLAYS COUNT BASIE」は楽しめた。マイクの立て方からして1月18日夜公演と大きく違った。別の人がマイクを選んだのかもしれない。会場拡声は、残響付加は相変わらず最低限であったが(それでも、女性ボーカルには少し付加してくれてあった)、ピアノは聞こえる音量に拡声されていた。それを聞いて、「あ、このピアノやっぱり伸びと鳴りが悪い」と判断した。
まともなビッグバンドの音を聞ける機会というのは、そうあるものではない。
子供のころに連れていってもらった歌謡曲のライブは、確か生バンドであったと思う。私は中学、高校、大学と吹奏楽をやっていたので、吹奏楽におけるビッグバンドアレンジは多く経験している。大学にビッグバンドがあれば入りたかったが、私が入った大学にはなかった。大学ビッグバンドの大会を見に行ったことがあるが、それはなかなかうまかった。ただ、曲目がジャコ・パストリアス全盛であったのは、まあ、時代だなぁ、であった。前述した板橋文夫のビッグバンドは楽しかった。
ビッグバンドをいつでも楽しめる場所として、ディズニーランドがある。プロが毎日演奏しているだけあって、音色も演奏も悪くない。ただ、曲目の自由度があまりなく、奏者のモチベーションを保つのは難しいかなという気がする。
Boston Pops Orchestraはシーズンチケットを買って通ったことがある。グレンミラー、ベニーグッドマンくらいまではなんとかなるが、それより新しいものはちょっとやりにくいのかなぁ、と思った。
CDやDVDになったビッグバンドとしては、原信夫とシャープス&フラッツとか、Joe Zawinulの「Brown Street」とか、Jaco Pastoriusのビッグバンドとかは好きだった。ラジオで昔聞いたWoody Hermanも素晴らしかった。
で、今回の高瀬龍一バンドであるが、あー、久々にまともなビッグバンドの音を聞いたわ、と思った。カウント・ベイシーの曲がほとんどで、カウント・ベイシーの音楽ってのは端正な美しさがあるなー、と感じた。
いい演奏を聴かせてもらうと、嬉しい。
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