
Sonicwareのデジタル・ポリフォニック・シンセサイザー「ELZ_1」を買った。2万9800円。
ELZ_1は、開発コード名が「Elizabeth」であったという。プリセット音色一覧には「Liz」という愛称が見て取れる。「イーエルゼットワン」と呼ぶか、「エルザワン」と呼ぶか、まあ、いろんな呼び方があっていいのかもしれない。
Sonicwareは、初の製品であるELZ_1に続いて「LIVEN 8bit warps」「LIVEN XFM」を出し、「LIVEN BASS&BEATS」は予約受付中である。新進のシンセメーカーであり、一度は買ってみたいと思っていた。ELZ_1はそろそろ製造が終わるかもしれないから、少し安ければ買うか、ということで購入した。
到着して箱を見たらベトナム製と書いてあった。確か、minilogueもそうだったような。ベトナムの低コスト恐るべし。
付属のケーブル(USBから電源だけを抽出するもの)でUSB端子から電源を取り、電源を入れた。電源ボタンはプッシュ式で、少し長押ししないと電源が入らない。続いてUSB接続を試した。驚いたのは、USBケーブルからの給電はしないようであることだ。USB端子の1個から電源を取り、USB端子の1個でMIDI接続をせねばならぬ。USB-MIDIは、ハブ経由だとうまくいかず、パソコンに直接つなぐ必要があった。
マニュアルに従って、ファームウエアを更新した。

この時点では、保護フィルムをはがそうかどうしようか迷っていたので、写真がきれいではない。
さて、ELZ_1については、英Sound On Soundがレビュー記事を掲載した(こちら)。筆者のRory Dow氏は、「The lack of modulation is disappointing and the MIDI spec is almost non-existent. I would gladly trade the entire effects section for a modulation matrix and some good sources.」と記している。和訳すると、「モジュレーションの欠如はがっかりさせるものだし、MIDIの仕様はほぼ何もないに等しい。エフェクトが全部なくてもいいからモジュレーションマトリクスといくつかの良いモジュレーションソースがほしい」である。
ELZ_1のMIDIインプリメンテーションチャートを見ると、コントロールチェンジが記載されていない。買って弾いてみてわかったが、すっぱりと何も受信しない。cc#1(モジュレーション)、cc#7(ボリューム)、cc#11(エクスプレッション)、cc#64(ダンパー)のすべてを受け付けない。昔からのシンセサイザー弾きがやりそうなことができない。シンセサイザーというものをゼロから作り直したかったのだろうと思うが、それでも、ちょっとストイックに過ぎるのかなぁ、という気はする。
ちなみに、LIVENはコントロールチェンジを受けられるようだ。スタンダードなアサインではないが、それでも、活用しがいがある機能だと思う。
ELZ_1は、ピッチベンドは受け付ける。ただし、可変幅は1オクターブで、広過ぎる感は否めない。設定変更できるようにしてほしい。プログラムチェンジは受ける。MONTAGEからプログラムチェンジを送ってプリセットの選択ができた。これは助かる。バンクチェンジは受け付けない。プリセットメモリーが128しかないから、バンクチェンジは不要なのだ。
LIVENではなくELZ_1を買おうと思ったのは、それがほどよく目の前に現れたからであるのだが、ELZ_1の方が価格が高い分だけ、ゴージャスな機構があるから、というのも理由である。まずはカラーの液晶ディスプレイ。小さいけれど大変に美しい。写真を見て音色名表示はできないのかも、と思っていたがそれは誤解で、音色を切り換えると音色名が一瞬表示される。
ただ、この仕様もけっこう疑問ではある。ライブでシンセを弾く場合、音色を切り換えて、実際に弾く前に、再度音色名表示を確認して、というのが、私の場合は欠かせない。弾いたら別の音色だった、というミスは防がねばならない。音色の切り替えはヒマな時にやっておくので、弾く直前に音色名が表示されていないのでは、正直ライブには使いたくない。まあ、私が今後ライブをする機会は多分ないとは思うけれど。
ELZ_1はライブ向きのシンセではないと思う。音色のパラメーターを変化させるにはロータリーエンコーダーを使うのだが、可変抵抗器のつまみと異なり、ロータリーエンコーダーはどこまでも回るし、ELZ_1の音色パラメーターは可変幅が大きく、それを1ずつロータリーエンコーダーで変えられるようになっているので、ロータリーエンコーダーを延々と回し続けないと音が変わらない。ギュッと回して音がギュイン、みたいにならないのだ。ライブ向きじゃねーなー、と思う。LIVENはそんなことはないんだろうと期待している。
ELZ_1を買おうと思ったもう一つの理由は、シンセエンジンが複数あることだ。LIVENは機種ごとに絞り込んでいるので、ELZ_1の方が、音作りを楽しめるかな、とは思った。
以下に、ELZ_1のファクトリープリセットの、最初の10個の録音を示す。MR-2000Sを回して思い付いたものを手弾きしたものなので、様々なヨレがあることはご容赦いただきたい。鍵盤はMONTAGE 6を使った。
000 8bit Lead
「8BIT WAVEMEM SYNTH」の矩形波をフィルターなしで出したもの。エフェクターがうまくかけてあって、昔のシンセを弾いているような、懐かしい感じがある。ベロシティがない、アフタータッチがないポリフォニックシンセのイメージだ。ちなみに、ELZ_1のポリ数は6である。おじさんの心をくすぐるねぇ。
001 Wavetable Synth
音色変化に合わせて弾こうとしたのだが、それが微妙にずれて、ずれたことで拍頭がずれたようで、なんか情けない演奏になってしまった。これは「SiGRINDER」というシンセエンジンの音である。ふーむ。
002 FM Trance
「FM SYNTH」の例。4オペレーターのFM音源で、この音色が使っているアルゴリズム8は、4がモジュレーターで1と2と3がキャリアであるようだ。その画像が表示されるのでわかる。
003 Chiptune Arp
コンピューターや携帯電話に搭載されていたサウンドチップをベースにしたシンセを「チップチューン」と呼ぶのではないかと思う。それを模したシンセの一つがELZ_1である。私はコンピューターゲームをあまりやってこなかったし、携帯電話の着メロを収集したりもしなかったから、あまり思い入れがないのだが、それでも、こういう音に懐かしさを少しは感じる。YMOの最初のアルバムを思い出したりする。
004 Sandy Icicles
「SAND FLUTE」というサウンドエンジンの例。いつものごとく指クセで弾いているのだが、それでも、音色ごとに違うフレーズが出てくるから、このシンセは私にとって良いシンセであると思う。
005 Arp Reflection
シンセエンジン「CUSTOM OSC」の例。モノフォニックのアルペジエーターありの音色というのも、面白いものだなぁ。
006 C Kokoro
シンセエンジン「LOW-BIT OSC」の例。こういう音色にはやられちゃうわけですよ。
007 FM 5th Lead
ELZ_1はエフェクトがけっこうゴージャスで、「DRIVE/MOD」「MODULATION」「DELAY/REVERB」「REVERB/MASTER」の4ブロックで各1つのエフェクトを選べる。この音色は「TAPE ECHO」と「PLATE」を使っている。
008 D.Z.Bass
「FM SYNTH」のベース。自分が持っている4オペレーターFM機はヤマハFB-01だけだが、やはりそれに近い気はする。ただ、FB-01はもうちょいローファイだったかも。エフェクトも、当時持っていたのはコルグSE-300だけだったしなぁ。
009 Cathedral Pipes
パイプオルガンの音色だと、自由にビブラートをかけられないということを不自由には感じない。当たり前か。
ELZ_1、いいシンセですな。LIVENも欲しいかも。
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