
米Studio Electronicsのモノフォニック・アナログ・モジュール「Boomstar 3003」を買った。9万6800円(税込み)+送料1150円。
4075、5089、SEMと、これまで3台購入してきて、今回が4台目。これで、最初にラインナップされた4タイプが揃った。2014年8月のSound On Soundのレビュー記事の写真で並んでいる4台だ。
散財したなぁ。
でも、Boomstarにはほれ込んでいるので、買うべきだと思った。Boomstarは、最良のアナログ・モノフォニック・シンセサイザーであると思っている。
アナログ・モノフォニックは、ビンテージには良いものがもちろんあるが、いかんせん、劣化している。こういう操作をすればこうなるだろう、と思っても、そうならないことがある。メンテナンスをお願いしても、新品に戻るわけではない。あと、ビンテージものは、きょう体が大きい。約8畳の洋間に並べるのは難しい。MIDIの接続も、多くの場合、手間がかかる。
Boomstarは2010年代の製品で、まださほど劣化していない。きょう体はコンパクトだ。MIDIの実装はシンプルだと言われるが、ベロシティでフィルターEGを動かせるし、cc#1でビブラート、cc#7で音量、アフタータッチでカットオフを変えられる。LFOのMIDI同期ができる。十分であると思う(本当は、アフタータッチでビブラート、cc#1でカットオフの方が好みだが)。
Boomstarはモノフォニックなので、和音を弾くことはできない。和音を弾きたい場合はポリフォニックシンセを使うことになる。
Boomstarには音色を記憶する機能がない(non programmable)。ライブでパチパチと音色を切り替えていくことはできない。それがしたい場合は、プログラマブルなシンセを使うことになる。
と考えると、ポリフォニックでプログラマブルなシンセの方が良いのではないか、と思うだろう。ところが、そうとも言えない。
昔、NHKの番組で、喜多郎が長野県のどこかにこもって音楽を作っているドキュメンタリーがあった。持ってくる機材は、すべてというわけにはいかなかったのだろう。レコーダーはTASCAMの8mmテープを使ったデジタルMTRで、ミキサーはヤマハ02Rであったと記憶している。シンセは、TRINITYの88鍵、700S、800DVであった。少ない機種でなんとかする場合、PCMシンセとアナログ・モノフォニックの組み合わせか、と感心した。
アナログシンセの良さは、歪みが内包されていることである。デジタルシンセもそれを取り入れつつあるが、まだ完全とは言えない。
アナログポリフォニックは、複数のボイスが同じ音色を奏でなければならない。歪みを使うとボイスごとに音が違うものになってしまう可能性があり、歪みを積極的に使う構造にはなっていない。また、発音数を増やすとノイズはどうしても増える。S/N比の面では、モノフォニックが優れる。
プログラマブルなシンセは、音色を呼び出した時に、以前と同じ音色を再現できなければならない。歪みが多いと再現性が低下するので、歪みを積極的には使えない。これまた、あまり歪まないように作られていることが多い。
Boomstarのようなモノフォニックでノンプログラマブルなシンセは、歪みを自由に使える。回路のあちこちに潜む歪みを楽しめるという点で、ノンプログラマブルでモノフォニックのアナログシンセに優るものはない。
モノフォニックでノンプログラマブルなアナログシンセとして、モジュラーシステムもある。私は以前Doepferのユーロラックシステムを持っていたが、下取りに出してしまった。パッチが面倒だったし、パッチケーブルでつまみが回しにくいのにも閉口した。
ユーロラックモジュラーの商品を見ると、価格が高いことに驚かされる。ユーロラックモジュラーよりは、Boomstarの方が安いし、場所を取らないし、接続不良も起こりにくいように思う。
もちろんユーロラックモジュラーには、豊富な種類のモジュールを組み合わせる楽しみがあるだろう。ただ、私の場合には、それは贅沢に過ぎるように思う。
では、Boomstar 3003の音を少し。
Saw Bass
JP-8000のレバーでcc#1を送り、ピッチベンドを少し使ってLogicに録音してクォンタイズ。その後、JP-8000のリボンコントローラーの上半分でアフタータッチを送ってそれを記録した。確かに、4075と5089のような太さはなく、SEMのような柔らかさもない。ジージー言う。TB-303を買ったことはないので比較できないが、持っている他のシンセとは風合いが異なると思う。
Saw Soft Lead
ところどころ、ジリジリする音が聞こえる。4075、5089、SEMでは感じなかったが、どうだったろうか。ヤマハSPX2000のMONO DELAYをかけた。リードを作っても、他のフィルターとは味が違う。
Triangle Bass Drum
Boomstarのオシレーター2でTRACKをOFFにしてキーボードの音程が反映しないようにすると、太鼓の音が作りやすい。違う鍵盤で連打できるだけで、作りやすさが大きく異なるのだ。驚きである。問題は、普通に弾いているといい音に聞こえるのだが、録音するとしょぼくなってしまうことだ。難しい。
Boomstar 3003のフィルターは、ローランドTB-303のフィルターを模したものであるらしい。Studio ElectronicsのBoomstarの製品紹介ページには「3003—rubbery, squelchy, twangy, lo-fi, beloved Roland® TB-303」と書かれている。このページにはフィルターカーブについての言及がないが、Boomstar Modular 3003のページには、「The 3003 filter is a voltage controlled, discrete analog 18 db/oct ladder low-pass filter」と記されているので、Studio Electronicsの面々は、TB-303のフィルターを18dB/オクターブと考えているようだ。
一方で、ローランド米国法人のブログ記事「TB-303 Acid Flashback」には、「24dB low-pass filter (often misquoted as 18 dB, 3-pole)」と記されている。どういうことになっているのか、私としては確かめるすべがない。
今日届いたBoomstar 3003を触って思うのは、このフィルターは他とは違う味があり、それが18dB/オクターブであったとしても驚かないなぁ、ということだ。レゾナンスを上げると発振するが、発振音が聞こえるのは高音域だけで、低い音が出ない点は独特である。レゾナンスは激しい効きをし、細くなってスケルチィ(ピシュっという感じのことをそういうのではないかと思う)になる。Boomstarの他の製品に比べるとノイジーである。じゃじゃ馬、ってところだろうか。
Boomstarは、現行製品「Mk II(2018)」は1399米ドルであるという。日本で販売するとなると、15万円から20万円くらいになるだろう。その価格ではとても売れないと日本の代理店が考えているのか、日本でMk IIを売っているのは見たことがない。
となると、10万円未満で買えるなら、買っちゃうよなぁ。とにかく、弾いていて気持ちの良いシンセである。いつの日か、4台並べて鳴らしてみたい。
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